愛する人たち
実家から戻ってきた。
言いようのない寂しさと静けさに満ちた自宅で、私はただ呼吸を繰り返している。
実家からの帰り際、母が私に「苦しんでいる貴女に、私は何もしてあげられない」と涙目で言った。
母が泣くのはいつものことだけど、苦しんでいることを知っていることを言葉にしてくれたのは初めてだった。
父は「ゆっくりでいいんだ。体に気をつけろ」と何度も言った。
ああ、私の居場所はどこだろう。
父と母が全力で気を使う、暖かく切ない愛情が千切れてしまわないうちに、私は自宅に戻ってきた。一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、溢れた分の愛情が乾いてしまうことを、私は知っている。
私の体が幾つかに分れることが可能ならば、父と母とも暮らしていきたい。
病気のことなど忘れ、苦しんだりもがいたりしながら、懸命に試験と向き合いたい。
けれど私は自宅に戻り、夫が見守る中で、一人で戦うことを選ぶ。
夫がいない昼間は寂しい。
誰かと話がしたくなる。
試験のことで、語り合える友達がほしい。
病気のことで、わかりあえる仲間がほしい。
そんな我儘な私と共に、私は父や母、夫とさえも離れて孤独に生きることを知った。
物理的な距離は関係ない。
人は孤独だと、パンドラの箱がゆっくりと開いて私の心に真実が流れ込む。
寂しいことは当たり前のこと。
この広い世界で、私たちは誰とも分かり合えないで生きている。
それでも。
だからこそ、力を振り絞ることができる。
一心同体のように愛情を捧げてくれる奇蹟のような出会いがある。
その奇蹟の中で、私は私の水流を辿る。
病気によって一見して乾いてしまった私の心にも、必ず原泉がある。
私はきっと、また溢れる水の中で生きることができる。
その日のために、今を生きる。
大切なひとたちに伝えたい。
今日も幸せだったと。
たとえ遠くても、一人の時間が長くても、私は私の力で幸せでいられるよ。
そのことを愛する人たちに伝えたい。
それが今の私の目標だと思う。